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時代が求める持続可能な半導体製造

Computer chips

この記事の執筆時点で、全世界の科学者や政治指導者が、スコットランドのグラスゴーで開催される国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の第26回締約国会議(COP26、2022年10月)の準備を進めています。COP26は、(新型コロナ感染症による1年間の遅れを含め)5年間の経過を検討する会議であり、人類の地球温暖化抑制計画を更新するものです。

議論のほとんどが、温室効果ガス(GHG)の排出に焦点を当てたものです。半導体製造業のトレンドでは排出量が増加していますが、特に一般製造業に比べても増加していることが示されています。

温室効果ガス排出量:一般製造業と半導体製造業の比較

温室効果ガス排出量:一般製造業と半導体製造業の比較

図1. 半導体製造によるGHG排出量が増加している一方、一般製造業からの排出量は減少しています。

詳細については、最新記事をご覧ください

多くの半導体企業が排出量削減に向けた動きを進めており、業界として世界的な温室効果ガス削減努力における主導的な役割を引き続き果たしています。

パリ協定

直近の大規模会合は、2015年にパリで開催されたCOP21であり、その結果がパリ協定でした。この協定で、締約国は、気温の上昇幅を産業革命以前の平均気温を基準として2 ℃(可能であれば1.5 ℃)未満に抑えることに合意しました。196か国の全締約国が、目標達成のために取るべき措置を定めた国別拠出金(NDC)を提出しました。COP26でNDCの見直しと更新を行います。

次回会合までの数年間で最も重大なできごとは、締結直後の米国の離脱と、最近になっての復帰でした。気候変動に関する国連枠組条約(UNFCCC)による活動は、気候科学者と気候変動の専門家による国際的グループである気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の分析と支援を基盤にしています。IPCCは、定期的に評価報告書(AR)を発行します。最新版は2021年8月のAR6です。

AR6では、気候変動が現実に存在し、測定可能で、人類が引き起こしたものだということについて、ほぼ完全な合意に達したことが特筆すべき内容でした。この報告書には詳細な予測が含まれており、人類が気候変動につながる活動を抑制しなければほぼ確実に起こるであろう不吉な未来を描いています。

この報告書の政策決定者向けの主な提言は、下記の通りです。

  • 人為的影響により大気、海洋、大地の温度が上昇していることは明白であり、大気圏、海洋、雪氷圏、生物圏に広範で急速な変化が生じています。
  • 気候システム全体の最近の変化の規模と、現在の気候システムの各種側面の現状は、数世紀から数千年にわたる期間において前例のない規模になっています。
  • 人類の活動から生じた気候変動は、すでに全世界のあらゆる地域の天候や気候に大きく影響を及ぼしています。熱波、豪雨、干ばつ、熱帯低気圧などの極端現象における観測された変化の証拠、特に人類の影響によるものだという認識は、AR5以降強まる一方です。
  • AR6では、気候プロセス、古気候の証拠、および放射強制力の増加に対する気候システムの反応についての知見の拡充により、2014年に発行された前回のレポート(AR5)よりも狭い範囲で、平衡気候感度を3 ℃と推定しています。さらに、さまざまなレベルの地球温暖化から発生する可能性が高い5つのシナリオについて述べ、温暖化が進むほど深刻な影響を及ぼすことを示しています。

温室効果ガス排出制限

地球温暖化の抑制方法についてのほとんどの議論で、地球温暖化の根本原因である温室効果ガス(GHG)の排出量を削減し最終的にゼロにすることに焦点が当てられています。

なんらかの形の炭素価格設定が必要であり、それによって人類の共有財産である環境の劣化によって生じるコストをすべて排出者に強制的に負担させ、経済的なプレッシャーを与えるという共通認識が形を変えつつも存在しています。この点について政策立案者は、その種の計画をうまく機能させるために必要な基本的な概念と定義を確立するだけで苦心しています。

GHGは、太陽で暖められると地球の表面から放出される赤外線(IR)放射を吸収するガスであり、熱を閉じ込めて大気の温度を上昇させます。温室効果ガスの代表は二酸化炭素ですが、他にも各種あります。ガスによって、IR放射の吸収効率に差がある可能性があり、大気中での残留時間も異なることがあります。

科学者は、特定期間の各種ガスによる温暖化の程度の比較に、地球温暖化係数(GWP)を使用しています。定義上、CO2のGWPは1です。半導体業界で一般的に使用されるその他のガスのGWPは、CH4が28、N2Oが265、CF4が6,630、NF3が16,100、SF6が23,500と、CO2よりはるかに高くなっています。二酸化炭素換算(CO2e)は、ガスの比較で使用されるもう1つの尺度です。通常、CO2eは、対象ガスと同じ温度上昇を引き起こすCO2の量です。CO2eを計算するには、該当するガスの重量にGWPを乗じます。

温室効果ガスプロトコル(GHGP)は、温室効果ガス排出量の測定と管理のための標準フレームワークを設定するもので、炭素価格設定などの抑制メカニズムに必要な前提条件です。GHGPでは、GHGの排出者と削減レベルに応じて下記の3つの「スコープ」を定義しています。

  • スコープ1 — 報告企業が所有または管理する業務(ボイラー、車両、プロセスガス)から直接排出されるGHG。
  • スコープ2 — 報告企業が他社から購入または取得して消費した電力、蒸気、暖房、または冷却によって間接的に排出されるGHG。
  • スコープ3 — 上流(サプライヤ)および下流(輸送、流通、保管)の両方を含め、報告企業のバリューチェーンで発生するあらゆる間接的排出(スコープ2には含まれないもの)。

2018年発行のIPCC特別報告書では、地球の温度上昇を産業革命前を基準として1.5 ℃以内に維持するためには、2050年までに二酸化炭素排出量を「ネットゼロ」にする必要があると結論づけています。ネットゼロ定義に含めるべきガスについて完全な合意が得られていないため、規定があいまいになり、各国・各組織が独自基準によってネットゼロを定義することが可能になってしまいました。2020年9月に、CDP(旧称:カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)は、「科学に基づく目標設定イニシアチブ」(SBTi)の代理として、ネットゼロ目標を堅実な気候科学に基づいて設定・評価する手法を開発しました。

また、GHG排出量の記述には、「カーボンニュートラル」などのさまざまな用語も使用されますので、定義の違いが問題になります。たとえば、中国の「カーボンニュートラル」の定義に含まれるのはCO2のみですが、EUではあらゆるGHGを含む定義を採用しています。ゼロ評価とニュートラル評価の方法も各種あり、あいまいさの問題はまだ完全解決に至っていません。CDPは、ネットゼロ目標を、GHGPの排出量スコープ1、2、3を含み、1.5 ℃の科学に基づく目標に適うものと明確に定めています。

半導体製造

GHG排出量全体に占める半導体製造業の排出量は大きくはありません。例えば、2015年の米国では、産業資源からの温室効果ガス(GHG)排出量の0.18 %、全GHG排出量の0.063 %にすぎませんでした[1]。半導体業界では、排出量が少ないにもかかわらず、全世界のGHG排出量削減のための調整においてリーダーシップを発揮してきました。

スコープ1:直接的排出 — PFCの成功事例

従来、揮発性ペルフルオロカルボン(PFC)化合物は、半導体製造において、エッチングとチャンバクリーニング工程での材料除去に使用する反応性フッ素原子の供給源として重要な役割を果たしてきましたが、安定性が高く、大気中での寿命が長い傾向があるため、温暖化の可能性が高い強力な温室効果ガスです。

1999年、地球温暖化が認識されたかなり早期の段階で、半導体製造業者は、その後10年間にわたって各地域のPFC排出量を少なくとも10 %削減することを約束しました。2010年までには、当初の目標をはるかに上回る32 %の削減を達成しました。その時点で、基準放出率(シリコン1 cm2あたりのCO2e)の削減目標を2010年の基準値より30% 低い値とするというさらなる削減を再提案しました。

製品の多層化や複雑性の強化、また新しいガスを使用する高度なエッチングプロセスにもかかわらず、2022年までには22.9 %の減少を達成しています。WSCは現在、IPCCによる最新の方法論(2019年)を使用して10年間でPFCを削減する新目標の確立に取り組んでいます (図1)。このPFCの例は、複雑な環境問題の解決策を模索するなかで直面する課題のよい例です。

PFC排出削減に成功したコンポーネントは、主に次の2つでした。まず、多くのチャンバクリーニング用途でのPFC NF3以外への切り替え、次にプロセスチャンバから排出される未消費PFCガスを破壊できる除害技術です。PFCは、プラズマまたは燃料ベースのバーナで破壊できます。プラズマには、燃焼する燃料による二酸化炭素排出量増加がないという長所がありますが、実際にどちらの技術を採用するかは、多くの場合、電力と燃料ガスの相対的なコストと入手しやすさに左右されます。

電力が入手しやすくコスト効率が高い場合でも、その電力源(すなわち石炭または再生可能燃料)についてもネットゼロ排出量スコープ2として考慮する必要があります。バーナの設計によっては解決策がさらに複雑になります。NF3自体に炭素は含まれませんが、炭化水素燃料により裸火で燃焼させるとPFCが生成される可能性があります。

この問題は、裸火全体の温度変化が大きいことから来ており、内部側燃焼機構と呼ばれる特別設計のバーナで解決できます。このバーナは、重要な領域の温度を均一に保ち、プロセスガスから炭素含有燃料の大部分を分離します。

スコープ2:間接排出 - オフサイト電力源からの購入電力

過去数十年間に目の当たりにしたエレクトロニクス技術の普及と急激な成長により、電子機器の消費電力が世界の発電可能電力を上回るだろうと人は簡単に結論付けるかもしれません。

実際はそれほど警戒すべきものではありませんが、無視すべきではない程度には重要です。2015年、情報通信技術(ICT)は、世界のエネルギー需要の約5 %を占めていましたが、2030年までに、ICTは世界需要の20 %を占める可能性があり、最も楽観的な予測でさえ7 %を占めると考えられています。

エレクトロニクス技術で消費されるエネルギーは、2種類に分類できます。まず、デバイス製造に使用されるエネルギーですが、これは現在ほとんど全量がサードパーティのサプライヤから購入されています。次は、デバイスの動作に使用されるエネルギーです。前者はGHGPのスコープ3に、後者はスコープ2に含まれます。興味深いことに、コンピュータが近いうちに世界の全電力を使用するという破滅的予測に少々反するのですが、最近の分析では、デバイス製造に使用されるスコープ2の電力が、他のスコープをはるかに上回ることが示されています。

スコープ3:電子機器の動作に使用される電力

半導体メーカーは長い間、製造工程における大きな電力需要に影響を受けやすい存在でした。環境面だけではなく、コストの観点からも影響を受けています。プロセス機器の使用エネルギーの比率は、ファブでの使用エネルギーの半分以下であるという推定が一般的です。ファブでの使用量の約半分は、多くのプロセスの操業を維持するために必要な真空状態の維持のためポンプが消費しています。

ポンプメーカーは、この業界の黎明期から、製品のエネルギー効率を改善し続けてきました。新しいメカニズム、高回転シャフト、電力インバータ技術、新素材といったすべてがこれに貢献しています。成果を上げやすい対策は、かなり前に利用し尽くされていますが、まだ多くの領域で改善が可能です。

最も有望なものの1つは、アイドルモード動作(グリーンモードとも呼ばれます)の実装です。このモードでは、動作対象プロセスがアイドル状態のときに、ポンプは低出力状態になります。最大の課題は、ファブのプロセス機器とサブファブのポンプとの間に緊密な調整が必要なことです。

この調整をサポートする技術はすでに存在しており、その実装に対する障害があるとすれば、歩留まりが高い大量生産工程についてはわずかなことでも変更を嫌うオペレータ側の姿勢です。グリーンモードの運用では、現行の生産に根本的な変更を加えることなく、GHG排出量を短期間で削減できます。

残念ながら、高度なプロセスノードで現在採用されつつあるプロセスにおいて消費電力が大幅に増大する可能性があります。その中には、従来の193 nm浸漬リソグラフィとの比較で約10倍の電力を使用するEUVリソグラフィがあります。処理ステップ数の減少など、相殺する要素もありますが、IMEC分析[4]では、28 nmノードから2 nmノードに移行することで、ウェハあたりの消費電力が3.46増加し、GHG排出量は2.5X増加すると推定されています。

EUVリソグラフィを大量生産中の大規模受託製造企業で初めて採用したメーカーでは、数年間、標準エネルギー消費量(8インチ相当ウェハマスク層当たりのkWh)が10 kWhをわずかに下回っていましたが、2019年には25 %増加し、12.5 kWhに達しました。

半導体製造におけるトレンドは明らかに消費電力増加を示しています(図3)が、解決策も同じく明らかです。エネルギー消費を再生可能エネルギー源に切り替える必要があります。

この解決策を、大手メーカーが見過ごしているわけではありません。上記の受託製造企業も、2020年には、近隣で建設中の920 mW洋上風力発電所の発電量全量を20年間にわたって購入するという世界最大の再生可能エネルギー購入契約を締結し、2050年までに100 %再生可能エネルギーを使用すると公約しました[6]。米国最大のIDMは、2030年までの100 %の再生可能エネルギー使用を公約しています。他の主要なプレーヤーも同様の公約をしていますが、大方と同様、問題は細部にあります。

スコープ3:上流/下流

スコープ3では、スコープの割り当てがやや難しくなります。集計するのが誰かによって異なるためです。製造業者の場合、データセンタのユーザーが消費する電力の発電で排出されるGHGは、下流のものですのでスコープ3です。データセンタにとっては、GHGは購入した電力による間接的排出なのでスコープ2にあたり、製造による排出量は、上流ですのでスコープ3です。

スコープに関係なく、使用排出用の最終解決策は、再生可能エネルギー源への切り替えにあります。コンピュータテクノロジーの大手ユーザーの一部は、その切り替えについて、製造業者よりもはるかに優位にあります。GoogleとFacebookは、2013年に再生可能電力の購入を開始しました。

データセンタ全体のエネルギー消費量はそれ以後も増加していますが、運用エネルギー消費による炭素排出量は減少しています。排出ガス削減のもう1つの要素は、この業界の歴史を通じて、コンピュータのエネルギー効率が劇的に向上したことです。トランジスターが小型化・高速化し、消費電力効率が向上するにつれて、ワット当たりの実行命令数が増加します。近年、モバイルデバイスの性能向上とバッテリ持続時間の延長に対する要求が高まり、性能と電力効率を両方とも改善する圧力がさらに強まっており、上記の傾向が加速しています。

これまで、半導体デバイスは、経済全体のエネルギー効率を向上したことで、持続可能性の推進に大きく貢献しています。

最新電子機器の基本的な実現技術である半導体は、経済のほとんどすべての分野において持続可能性とエネルギー効率の向上を促進するソリューションの技術的基盤となります。半導体は、輸送、製造、医療、暖房、冷房、その他経済の主要分野におけるエネルギー効率を高め、GHG排出量を削減します。

環境面、経済面、社会面など、ほとんどどのような観点から見ても、高度なエレクトロニクス技術がもたらす下流での利点は、コストをはるかに上回ります。

COP26

IPCCの証拠に基づく結論は明白です。人類が環境の温暖化をもたらしているのです。その予測は悲惨であり、無策のコストは人的にも経済的にも、緩和のコストをはるかに上回ります。今日、半導体産業は温室効果ガスの排出量が最大級の業界というわけではありませんが、その排出量は大きく、急速に増加しています。

半導体製造プロセスからのGHG排出量の短期的削減を可能にする対策は存在します。これには、設計の行き届いたPFC除害や真空ポンプのグリーンモード運転などが含まれます。これまでのところ、最も重要な変更は、業界全体とサプライチェーン全体が再生可能エネルギー源にシフトすることです。米国のパリ協定復帰を受けて、締約国会議に主要な経済大国がすべて参加する状態になりました。各国指導者に協調的なリーダーシップと財政的コミットメントを求め、国内外を問わず、あらゆるレベルでGHG排出削減のための運動を継続する必要があります。

チャニック博士は、エドワーズの環境ソリューション事業開発マネジャーです。その長いキャリアを通じて、さまざまな立場でリーダーシップを発揮してきました。また、ブリストル大学の客員教授(化学工業)であり、IPCCの半導体産業担当者でもあります。IPCCでは、最新の評価報告書(AR6)の校閲を担当しています。

参考資料
  1. 『気候変動対策を継続する半導体産業』、デビッド・アイザックス、米国半導体産業協会(SIA)政務担当副会長、2017年6月7日午後3時17分のSIAブログhttps://www.semiconductors.org/semiconductorindustry-to-continue-action-on-climatechange/
  2. 世界半導体評議会第25回会合の共同声明http://www. semiconductorcouncil.org/wp-content/ uploads/2021/08/FINAL-25th-WSC-JointStatement_0602.pdf
  3. 『炭素の追跡:捕捉しにくいコンピューティング環境フットプリント』、ウディト・グプタ他、高性能コンピュータアーキテクチャについてのIEEE国際シンポジウム(HPCA 2021)https://ugupta.com/files/ ChasingCarbon_HPCA2021.pdf
  4. 『ロジックCMOSテクノロジーの環境フットプリント-DTCOベースの分析』、IMEC https://www.imec-int.com/ en/articles/environmental-footprint-logiccmos-technologies
  5. 『チップ業界の直面する巨大なカーボンフットプリント問題』、ブルームバーググリーン、アラン・クロフォード、イアン・キング、デビー・ウー、2021年4月8日午後5時01分(米国東部標準時)https://www.bloomberg.com/news/articles/2021-04-08/ the-chip-industry-has-a-problem-withits-giant-carbon-footprint
  6. The computer chip industry has a dirty climate secret, The Gaurdian, Pádraig Belton, Sat 18 Sep 2021 08.00 EDT https:// www.theguardian.com/environment/2021/ sep/18/semiconductor-silicon-chipscarbon-footprint-climate
Computer chips

半導体業界の主要な課題への取り組みの詳細については、マイク・チャニック博士の特集記事を下記からダウンロードできます

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